呼吸する家を造り続ける拡伸工務店
誠和会とは、埼玉圏内で家づくりに関わる匠の心をもつ者たちの集団です。職人として、サポーターとして、夢のある家・住空間づくりを提案し続けるために会員同士が力を合わせ、より良い生活環境に必要なモノやコトづくりまでも研究しています。
誠和会副会長の拡伸工務店の尾身社長は、理事会でも「木」の話になると非常に熱のこもったお話をされます。
なぜ「木」にこだわるのか、久喜市菖蒲町三筒の拡伸工務店を直撃取材いたしました。
4時間に渡り、尾身社長から、すべてに職人魂を感じるお話を伺いました。
丁稚奉公時代
拡伸工務店 代表取締役の尾身昇氏は、新潟で幼少期を過ごされました。
ご実家は農業をされておられましたが、親戚3件が工務店をしており、中学時代に手伝いに行くとお小遣いをもらえるので、手伝っているうちに、卒業したら、どこを手伝うんだ?と、聞かれ、卒業後、親戚の伯父さんのところで丁稚奉公を始めました。
しかし、最初の3年は、朝4時起きで、飯炊きと洗濯の日々。月一度の休みも、親方(伯父さん)の世話。
肩こりの酷かった親方の肩を、毎日30分~1時間もむのも、独立するまで13年間、毎日続けました。
「多分、その記録は破られなかったと思うよ」と、ユーモアいっぱいの尾身社長の言葉です。
丁稚のころは、月1,000円の給料で、それだけでは、何も買えないので、アルバイトもしたそうです。
そのアルバイトも、親方から紹介された寿司屋の包丁研ぎ。
1本研ぐと500円で、当時のオールナイトの映画のチケットが500円だったそう。
尾身社長は笑いながら「昔の親方は、人間ができていて、アメとムチの使い方もうまくて、若い時にお金の苦労をさせるから、仕事への有難みも、忍耐、我慢も身についたんだよね」と言われます。
この時期があるからこそ、大概のことには我慢ができるようになったといわれます。
アルバイトの包丁研ぎも、上手くなるためには数か月かかりましたが、映画の楽しみの他、このアルバイトのおかげで、鉋(カンナ)をはじめとする研ぎが上手くなったそうです。
とはいえ、来る日も来る日も、7人の兄弟子たちのために飯炊きの毎日。
大工になるのに、なんで、こんなことをやっているんだろうと、自分に疑問を感じ、18歳の時、真夜中に親方のバイクを盗んで実家に逃げ帰ったのでした。
ところが、実家に帰ると、お父さんから「根性が足りない」と火鉢で殴られ、さらに、実家を訪ねてきた親方にも怒鳴られ、殴られて、自分の身の置き所は無いんだと腹をくくったそうです。
年季奉公は7年。
飯炊きの3年が過ぎて、ようやく木に触れる仕事ができるようになりました。
この7年というのは、修行をして、親方のところを離れて、現場で仕事ができるようになるということで、外で仕事をすると、一日3,000円になりました。
家づくりへの自信
25歳から28歳の時は、とにかく家づくりに関して、なんでも挑戦がしたい!という時期だったそうです。
そんな27歳の時、親方から1軒の家づくりを、1人でまとめてみろと言われました。
その家は、新築3年で火災にあって、再び家を建てようという家族の方たちでした。
尾身社長は、その家族が喜ぶ家を造るために、ヒアリングを重ね、丸太や竹など、木にこだわった家づくりをし、新築祝いの時には、「こんな立派な家を造ってくれてありがとう!」と、上座に座らされ、恥ずかしさと共に「自分の仕事が、こんなに感謝されるんだ!」と、それまでの大工仕事だけでない、家を造るということの醍醐味を肌で感じたそうです。
この1軒の家づくりが、今の自分の原点であり、さらに、埼玉のとある市長の家を造った際、建築雑誌の表紙に掲載され、家づくりの楽しさと、自分の仕事に自信と誇りともつことができた最初の一歩でした。
28歳で結婚。30歳で、4歳年下の弟と親方から暖簾分けされ、二人で独立しました。
幼少期の想い出
新潟はいわずとしれた雪国で、冬は仕事がなく、出稼ぎにでなけれなりません。
親方は埼玉に出るということで、埼玉なら1年ずっと働ける・・・という思いもありました。
こども時代の尾身社長は、生家が農業をしていましたが、平野ではないので、山をいくつも超えていかねばならない、大変な作業だったといいます。
肥料も、今のようなものではないので、肥溜めからすくったものを、背に負い山を歩いて田んぼや畑に向かいます。背負ったら、とにかく辿り着くまで、座ることができない。
今、仕事においても、背負った以上、やりとげなければ・・・という姿勢でありつづけられるのも、この幼少期があればこそなのでしょう。
車が通れない山道では、大八車をお父さんが引いて登ります。
下り坂では思い荷物を載せると、ブレーキがきかないため、大八車の後ろにブレーキ替わりの棒をつけ、それでも勢いつくと暴走するので、お父さんが大八車の下敷きにならないよう、3人の兄弟で縄でブレーキ替わりに引っ張ったといいます。
時々、お兄さん、自分、弟と、縄に引きずられて、擦り傷を作ったりということも。
そんな手伝いも、4,5歳の頃からしていたそうです。
関東のリヤカーにはブレーキがついていませんが、新潟ではリヤカーはブレーキ付きで、リヤカーがおうちにやってきた時には、兄弟3人、これで楽になったと喜んだそうです。
また、中学1年生の時から、耕運機は、校長先生から許可をいただければ、警察に届けなくても、運転できました。
蚕を飼っていたので、朝、桑の木畑に耕運機の後ろに、おばあちゃんと籠を乗せて山へ連れて行き、それから戻って、学校へ行って、授業が終わると、また耕運機で山に登り、おばあちゃんの採った桑の葉を、耕運機の後ろに乗せて家に帰るということもしていました。
そんな風に、子どもの頃から、家庭を支える一員として働いていたのでした。
当時を振り返って、尾身社長は語ります。
「いじめとか、人を怪我させるとか、そんな考えさえなかった。皆、痛みがわかっていたからね。どうも、最近は島国根性が激しいね。自分さえ良ければいいって人が増えたように思うね。他人を思うという気持ちがなくなったというか、有難いという気持ち、周りの人のおかげで生きていけるってことが薄らいでしまっているね。」
木の良さは経験から身に着けた
木の良さ悪さは、最初は全く分からなくて、毎日の経験の中で、この木はクセが悪いなあとか、この木は素直だなあということが分かってきたと言われます。
ヒノキといっても、産地によって顔が違って、育った山の大小や気候で全く異なる顔を見せるのだそうです。
鮪で喩えると、ブツと大トロほどの違いがあり、ヒノキだから高価というわけでもなく、節の有る無しや、赤杉はヒノキより高価であったりもします。
また、木にはそれぞれクセがありますが、硬い木は土台に適しているし、見えない柱に使えるもの、見える柱に使えるものなど、その木によって、生かせる場所があります。
天然の木について、経年によって、割れはどの程度になりますか?とか、どれだけ透いちゃいますか?と聞かれると、「木に聞いてみてください。木は生きているので、答えようがないんですね。」と。
その上で、新建材を選択されるか天然木を選択されるか、お客様に選んでいただくそうです。
最近では地球上で樹木が減ってきているので、長さの十分な木が無かったり、かつては安価に手に入ったラワンなどは、現在は品薄で高価になっています。
ラワンの木はカナダに多く見られますが、1本の木として生育には100年かかります。
ところが、カナダでは、ラワンがたくさんあるからと、切るだけ切って後のことは考えずにいたため、ラワンの木が稀少になってきました。そのため、国で、ラワンの伐採制限をかけています。
ラオスでは松が採れるのですが、やはり無茶な伐採が行われ、軍が伐採禁止法を出しました。
日本人は知恵があったので、植林の技術として、切ったら植えるということをしてきました。
しかし、日本では林業の担い手が減り、伸びた枝を掃うことができず、木材の供給に影響が出てきています。
建材会社のウッドワン(元住建)では、日本に材木が無くなるだろうという予測のもと、ニュージーランドの松の山の伐採権を取得しました。
建築に使われる世界の木についても、尾身社長はアンテナを高く伸ばし、天然の木はもちろん、お客様が求めれば建材について、しっかりとした回答ができるように、日々、勉強を続けておられます。
日本の家づくり
現在では、木が育つ時間を待つことができないため、若い木を切ることが多くなっていると、尾身社長は残念そうに言われました。
少し前の日本では、自分の家を持つ人は、自分の山をもち、生育に必要な期間が100年から150年の樹木を、孫の代のために植えました。
良い木で造った家も、100年ほどで痛みがくるので、その際の立替の時期にあたる孫のために、家を造るために木を切った後、植林をしていたのです。
家を守る-家を継ぐというのは、代々伝わる祖先の願いや重みを背負うということだったのでしょう。
誠和会が応援する誠農社とフジハウジングの「農ある暮らし」は、食と住と職が一体となり、孫の代にまでつなげることのできる土と土地と農を、今、作り上げています。
日本では、孫の代に使ってもらうために家づくりの木を植えてきました。
子どもをもたない若い世代が増え、木を植える意味も見えなくなってきたようです。
拡伸工務店では、施工した家に住まう人が、暮らしの中で毎日使えるものを、社長自らが木を加工して、テーブルや棚、椅子といったものを、その家族の生活に合わせて、手作りの贈り物を届けています。
木の居間にして皆に集まってほしいというご家族のおばあちゃんは、「毎日、友達が遊びにくるから玄関でお茶飲みながら話ができるテーブルが欲しいのよね」とポツリとつぶやきました。
「ばあちゃん。そんじゃ、そこにポット置いて、すぐにお茶を出すといいねえ」
「ああ。そうできたらいいねえ。」
そこで、木のテーブルに押し花を施して、真ん中を開けて砂利を敷いて、お花が活けられるようにし、テーブルの下には、お茶碗を入れるケースを付けて、ポットも置ける、おばあちゃんのためのテーブルを作ってお贈りしたところ、毎日、重宝して、来客のお友達に、とても喜ばれているとのことでした。
家は、住む人のためにある。
住む人が呼吸しやすい家・・・肩で息せき切ったり、息を潜めて生活するようなことのない、安心して、楽しく暮らせる家を、設計・施主・施工の三つ巴で、ほんもののマーホームをもってほしいと願って、今日も、住む人の顔の見える施工のための独自の設計図を描いています。
家づくりの見えない力
多くの人は、見えていないそうですが、図面さえ、きっちり、しっかりと描ければ、後は、どう色づけしていけるか、ということだけで、段取り80%であると言われます。
そうすれば、現場の職方は、自分達で動いて、「今日、ここが終わるから、その後は、そっちの仕事の番だ!」と、業種間での連携もスムーズで、大工さんの建てる木の家は、時間がかかるだろうというイメージとは違い、個々が最大限の力で最良の仕事をしてくださるそうです。
また、誰もが木の種類や値段で、その善し悪しを判断しがちですが、実は家づくりでは天然の木を生かすためには、仕上げの塗料の選択が重要なのだそうです。
どんな木でも、工事をしていると人間の油がついてしまい、それを洗って磨いて、そこに天然の塗料を塗ることで、木を長持ちさせることができます。
「手入れをする時も、やっぱり高価な薬剤とかが必要なんですか?」
と、お聞きすると
「米ぬかが一番いいんだよ。売り物には石油とか入ってたりするし、自然が与えてくれたものが、天然のものに、一番合ってるんだよ」
とのこと。
「人も一緒でね。家は、100%の完成品じゃないよって、伝えてるんですよ。一緒に作ったんだから、親戚と同じだって。この家を一緒に面倒みていきましょうよって、気持ちで、手作りの家具を贈っているんです。毎日、見る度に、あの大工さんが作ってくれたんだよねえって。親戚の従姉妹、どうしてるかなあって思い出すみたいにね」
職人の皆さんに・・・
たとえば、クロスや壁紙が主流の家づくりになって、左官の仕事がなくなったって、ついつい愚痴を言いたくなる気持ちも分かるけどね。
仕事が棚から落ちてくるわけじゃないんだから、仕事を増やすために、自分たちのやってることを、もっとアピールしていかなきゃいけないって思うんです。
建物の耐久性や居住快適性を高めたり、壁を美しく仕上げるという装飾的な役割があって、壁紙の画一的なものとは違う壁を作りたい人に向けて、何ができるってことを発信するとか。
壁紙が1平米あたり2000円かかるけど、うちでは、壁塗りも2500円から3000円くらいで出来るから、実は、そう変わらないよとか、いろいろなアプローチの仕方を考えて、努力すべきじゃないの?って言いたいですね。
私は、水回りなども、お客様にできるだけ長く使ってもらいたいと思っているので、各社の耐久性や、いいところと悪いところをお話して、一緒にショールームを回って説明もします。
で、結局、どうしますか?と聞くと、やっぱり、尾身社長の言う通りだった。って、言っていただけます。
うちでは、お客様が何を選ぼうと、得するものでもないのですが、ほんとうにお客様のためにと、長く使えて手入れも簡単だよと、いいものが、なぜいいのかをお伝えすると、ご自分で選んで答えを出してくれます。
その答えを家に取り入れるために、工夫するのが面白いですね。
外から見るとなんの変哲もないような家が、中に入ると木に囲まれた家だったりと、住む人、作る人、訪れる人も楽しめて、自然の健康の家をこれからも造っていきたいです。
取材を終えて
まさに職人ここにあり!という職人魂を感じました。
木も人も、同じ自然の中で生かされて、相手の吐く息を吸収し、自分の吐いた息が相手に吸収され、呼吸する家と、呼吸できる人でいられるのだということを改めて感じました。
コンクリートにない木の温もりは、まさに呼吸しているからなのですね。
誠和会の職人の皆様は、住む人が自然な呼吸ができるよう、呼吸する家づくりを目指しています。
地球と一体となって、命をつなげていくことが、人として生まれてきた意味であるという事を、仕事を通じて、誠和会として、農ある暮らしを応援したいと思っています。
農ある暮らしの応援できる家づくりは、誠和会の会員だからこそできることと、誇りをもって今日も現場で仕事をしています。
有限会社拡伸工務店 HP http://kakusin-no.co.jp/
(〒346-0104 埼玉県久喜市菖蒲町三箇678-5 TEL 0480-85-6590 FAX 0480-85-6596)
4 Comments
素晴らしい工務店さんですね。是非終の棲家を建てるときには、お願いします。 また、事務局の方の取材とまとめ方、表現力には脱帽します。 これからも尾身社長、事務局の方のご活躍お祈り申し上げます。
「鍛えられた人間は、周りの人たちにいい影響を及ぼすことができる」とこの記事を読んで思いました。
鈴木様 ありがとうございます! 尾身社長の丈夫なおうち作りはもちろん、大工の伝統をご自分のできる限り残したい!という姿勢が、ほんとうに素晴らしいことだと思います。 上棟式も、今後、ますます簡素化していく方向ですので、敢えて、2015年に上棟式を行い、「木遣り歌」を残そうと、自ら身銭を切って行った、その職人魂に敬服です。 後世に遺るほんものの「木遣り歌」をご覧いただけます。 ▼ https://youtu.be/CFUwYGl6mms
伊藤さま 今後の記事制作にも、大変に励みになります。m(__)m この時、拡伸工務店の尾身社長のお話を伺い、先日、現場を取材させていただき、肉体も精神も鍛えられたものは、人に「宿る」ということを痛感させられました。 そうした方は、背中や姿勢で、人に伝えることができるのでしょうね。